(会員談話室投稿)

        安井元副会長の「COP21のパリ協定を巡る国内のせめぎ合い」について:

                  野々垣 三郎( 昭和28年 応用化学科卒)

       < CO2濃度2倍化によって起こる温暖化は0.6℃よりもずっと小さい>        

地表の平均温度は、大気中に温室効果ガスが含まれていないとしたときには −18℃(絶対温度で255K)であり、大気中に温室効果ガスが含まれている現状では15℃(絶対温度で288K)であるとされている 。

上記の255Kという温度は、地球の「長期間放射平衡」、すなわち、長期間(例えば1年間)の間に、地球が太陽から受け取るエネルギーは、その期間中に、地球が宇宙へ放射するエネルギーに等しいということと、シュテファン−ボルツマンの法則、すなわち、「絶対温度Tの黒体(紫外、可視、赤外の放射線に対する反射率が0である固体)から放射される放射線の全エネルギー量はT 4に比例する」という法則とから導き出されている。

上記の「長期間放射平衡」は温室効果ガスの有無に関係なく成立するはずであるから、一定長期間中に、地球が太陽から受け取るエネルギーが一定であるという条件下で、次式が成り立つ。
                (1–a )T4 = 定数        (1)

ここで、Tは地表の平均絶対温度、aは、地表が赤外線として放射するエネルギーが、温室効果ガスに妨げられて、宇宙へ向かえなくなる割合を表す。Tを上記の255Kと288Kとで置き換えて、次式を得る。
               (1–0)×2554 = (1–a )×2884   (2)

式(2)からa の値は次のように求められる。
               a  = 0.385            (3)

 Jack Barrett* によれば、厚さ100mの大気層において、二酸化炭素(CO2)の濃度が、産業革命前の値から、その2倍になったとしたときに、温室効果ガスの赤外吸収は0.5%だけしか増加しないそうである。増加がこのように小さい理由は、「CO2の赤外吸収の飽和傾向」にある。すなわち、CO2は特定の波長の赤外線のみを吸収し、その他の赤外線は吸収せずに透過させるので、CO2濃度が高くなると、吸収される赤外線のほとんどすべてが吸収されてしまい、それ以上にCO2濃度が増加しても、赤外吸収率の増加がほとんど起こらないのである。CO2に吸収された赤外線のエネルギーの一部が(赤外線として)宇宙へ再放出されるとすると、aの増加は0.5%よりも小さくなり、それによるTの上昇は、式(1)と式(3)とから、0.6K(0.6℃)よりも小さいことが判る。

実際の大気層の厚さは、1気圧において、約8000mであるので、CO2の赤外吸収は、ほとんど完全に飽和しているはずであり、実際の大気中のCO2濃度が2倍になっても、それによるaの増加は0.5%よりもずっと小さくなり、Tの増加も0.6K(0.6℃)よりもずっと小さいことが分かる。
                                   
* http://www.warwickhughes.com/papers/barrett_ee05.pdf (p. 1042)

 


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