(会員談話室投稿)

        :COP21:地球温暖化対策にどう向き合えばよいのか?

                    千葉泰久( 昭和43年 合成化学科卒)現親和会会長

 安井先生のCOP21を見据えた地球温暖化に対する新春ご提言に、グッと胸打たれ、 お屠蘇気分から我に返り愚考を重ね、私見を纏めてみました。

先生ご指摘の我々がとるべき方向に対して正に「正鵠を得た提言」と考えます。ただし、化石燃料に頼らない社会の実現を図るために、化石燃料のもつエネルギーを使ってその社会を創っていかねばならない・・・という悲しい現実を見切った上で、目指すべきだと考えます。

トヨタのチャレンジ2050は、正に地球環境の保全を基軸に据えた素晴らしいもので、電気自動車だ!とか特殊な分野に絞らず、あらゆる分野を意識したものと考えられ、トヨタはさすがだ・・・と唸らせる目標だと考えます。しかし最近の動きから、ついつい燃料電池自動車MIRAIに目が向いてしまいますが、必ずしも本命視している訳ではなく、水素社会の実現もかなりハードルの高い目標ではないかな?と案じている次第です。

以下は小職が宇部興産や宇部商工会議所担当の時分、3.11の少し後に、社員や宇部市民に問題提起していたことをベースにしております。従い最初の書き出しはCOP21以前のやや旧いものとなっています。

○地球温暖化対策の流れ

従来わが国は中長期的にはCO2主体の温室効果ガス排出量を2020年までに1990年比25%、長期的には2050年までに80%削減というグローバルな目標を掲げていたが、元々疑問視されてきた数値であった。3.11福島原発事故がこの流れを変えて、COP19(ワルシャワ会議2013年末)にて、原発ゼロベースの日本の目標引き下げに踏み切ったが各国の批判が集中した。これらの変遷を経て、今回安井先生ご提言対象のCOP21にて、参加国が世界中に増え大きな変換点を迎えたわけである。

エネルギーは人がこの世で生を営む限り必要不可欠なもので、それをどう生み出すのか?という大命題がいつの世にも存在する。数年前まで中央環境審議会地球環境部会(経産省・環境省の合同委員会)に化学工業の代表として審議に参加していた小職としてはある意味複雑な思いに駆られる日々である。当時産業部門は、当然のことながら“企業の生き残り”をかけてエネルギー合理化、即ちCO2削減に励んできたのだが、運輸・民生部門の危機意識が低く今後の大きな課題だとされていた。皮肉なことに不幸な原発事故がこの危機意識を喚起することになった。即ち“ものづくり”と“日々の暮らし”がエネルギー供給をベースに共通の基盤の上にあり 私たちの大切な“国づくり・地域づくり”に繋がっていることが十分に認識されるようになってきたわけである。
わが国では、一次エネルギー供給の80数%を化石エネルギーに依存しており、利用効率も高いので世界に輸出できる技術の一つと考えられる。原子力発電の新たな進展・拡張は未知数なところから、この化石エネルギー利用技術の更なる開発は重要課題の一つとなる。勿論、太陽光発電などの再生可能エネルギーの利用も進めねばならない。バイオマスとて結局は太陽・自然からの贈り物なのである。

原発は危ない! 石炭はCO2排出量が多い!天然ガスはCO2が少ない!太陽光発電だ! オイルシェールガスが頼りだ!とか 様々な意見・考え方がある。世界の国々と綱引きをしながら、しかも毎日メシを食っていかねばならないので 政治的にも、経済的にも種々の制約・進め方はあるのだが、誤解を恐れず発言させていただくとすると“自分たちの目の前の都合だけで拙速に走るべきではない”と主張したい。

例えば、オイルシェールガスを採取するところからエネルギーの消費即ちCO2の発生が始まっているのである。これらを使って“ものづくり”がなされ家電製品・衣類・太陽光発電装置など様々なものを”日々の暮らし“に使っているのである。そして優れた省エネ製品を長年にわたって使うことでCO2の削減を図るということもある。従って、燃料電池車はCO2を出さないよ!とか部分的にその価値を判断するのではなく そのエネルギーが誕生した時からその一生を終える時までのライフサイクルで関連するモノの価値を考えるべきである(LCA:Life Cycle Analysis)。

そう考えれば、各種の一次エネルギー源の選択にしても オンーオフの拙速な判断をするのではなく“ベストミックス”を実現可能な時間軸も入れて進められるであろう。

○ エネルギーのパラダイムシフト

アメリカのシェールガス革命が大きなパラダイムシフトを喚起していることは間違いな い。21世紀最大のイノベーションである。従来は石油・天然ガス・石炭ベースでは50〜100年しかエコノミカルには産出できないとされてきたものが、 300年を超えて継続産出できるという革命である。従来のままで進めば原子力発電など、その是非の議論は激しいが、せいぜい100年なのである。

このパラダイムシフトに日常生活は勿論、各界がどう対応していくかが重要となる。化学企業を例に徒然にランダムに想いを巡らせてみよう。

天然ガスをどこからどういう価格で輸入してくるのか? コモディティを日本国内で生産し続けるのか?従来は長い炭素鎖をクラッカーでぶち切る化学できたが、逆に、C―1 → C−2、3、4 ・・・などカップリングの化学の展開が必要になるのか?国内の石油コンビナートがどう動くのか?ナフサベースの石油化学が天然ガスベースの企業に変身していくのだろうか?

究極的には、コモディティはUSAでの製造になる日もこようが、USAへの進出も視野に 入れるべきなのか?革命だから破格のコスト転換も起こるだろう。このシェールガスと中東OPECの綱引きなどで、石炭など化石燃料の価格は今は下がっているが、シェールガス: LNGの進展により原油・石炭の価格も将来乱高下があるだろう。中長期的には確実に下が っていくと考えられるのだが、超長期的に見れば「ボイラーなど単純なエネルギー源は天然ガス・原料用としては原油」とスミ分けになると思われるが、化石燃料は有限であり、 しかも温暖化推進の元凶であることを忘れてはならない。これらのベストミックスを図り ながら、地球環境をできるだけ傷めずに再生可能エネルギーの普及割合のアップを推進しなければならない。
エネルギー革命とは、人間・社会生活を営む上での根源的なものであることを強く意識せ ねばならない。
  
  
科学の世界ではしっかりとしたデータに基く、誰もが納得する事象を“常識”と称す るが、いまだ実証が充分でないものとか、エネルギーの変革など環境の時代変化に合 わないものは“非常識”ということになる。
この非常識なるものの中に革新的なものに発展する芯があるわけで、この芯を常識化 するチャンスが到来しているともいえるし、この革新・常識化は研究者の使命でもある。 前述のごとくアンモニアなどコモディティは、いずれはUSAからの輸入に頼る時代になる だろうが、優れた技術・その延長線上・その周辺にあるものへのこだわりは強く持ち、資 源コストの安いものを求め、世界またはアジアでのトップを目指し、海外への進出も含め て進む道を模索すべきである。

また、海外での将来展開がコモディティ・半コモディティをとなると、国内での製造を目指す新規投資は必然的に割合が下がってくるはずだから、一方では国内での研究開発への投資が更に重要になってくる。 だからこそ、海外への進出の適正化にも注力せねばならない。

以上くどくど述べたが、これらの視点に立って、エネルギーのベストミックスを考慮し、化石燃料を上手く使いまわしながら、「地球温暖化対策:再生可能エネルギーの普及・化石燃料からの脱皮」をはかるべきと考える。


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